[ODFD#0002] - 就労移行支援事業所の使い方
目的
就労移行支援事業所を用いても思うように就労定着できず、なんども就労移行支援事業所を出戻りして利用する障害当事者がいる。成果を出すことができるように上手に就労移行支援事業所を利用する考え方を提示する。
対象読者
一般就労を目指すすべての障害当事者
著者/障害
なおぴょん/統合失調症
内容
障害者の一般就労定着率についての考察
りたりこさんのかつての調査では、一般企業に就労している人はわずか14%。これはあくまでも年数を考慮しない比率である。

下記はとあるサイトに紹介されていた就職者全体の就労比率の変化を示したグラフ。就職して1年後の就労定着率は発達障害が最も高く70%ほど、次に知的障害で69%ほどで発達障害とほぼ同程度、最後に精神障害が49%と最低値。就労定着支援期間の3年をもって定着と定義し、就労定着率が上記比率で低下するものと考えると、3年後の定着率は発達障害と知的障害で34%、精神障害に至っては12.5%になる。この数値は一体何を意味するのだろうか?

妥当かどうかはわかりませんが、就職して3年で就労定着できたと少なくとも国家は判断する。なので、この国家の見解を就労定着と考えてみよう。障害者全体のうち、一般就労できる人は14%。その中から、3年後の発達障害、知的障害は34%、精神疾患は12.5%。では障害者全体において、3年以上一般就労できる人はどの程度の比率だろうか。計算してみよう。
- 知的・発達:0.14 × 0.34 = 0.0476 = 4.7%
- 精神疾患:0.14 × 0.15 = 0.0175 = 1.8%
障害者全体の平均定着率:(0.0476 + 0.0476 + 0.0175) ÷ 3 = 0.0376 = 3.7%
上記比率をわかりやすく考えるためにこの数値を偏差値換算すると68程度。これ大学受験ではかなりの難関校に受かるレベル。容易ではないことは明らかである。
能動的かつ主体的になる必要がある
上記をみれば、受け身の姿勢で就労移行支援事業所の訓練を受けたところで一般就労定着を実現できないのは言うまでもない。だから能動性とやり方の工夫=戦略が必要である。能動的に成果を出す考え方を紹介しよう。

「能動性」に必要なものは「危機感」「孤独感」である。自分が危ないかつ自分以外打開できないなら、状況を打開するために自ずと自分から動くのは自明である。でもそれだけでは成果はでない。成果を出せるやり方をわかって実践しなければ努力も空回りである。
一般就労定着に必要な能力
下記に一般就労定着に必要な能力を示す。

残念ながら実際の就労移行支援で教えている内容は上記の表ではLv.3の「感性」の内容のみである。だから就労移行支援の訓練を受け身で受けているだけでは成果はでない。理由は簡単で、基礎ができていないからである。それ以外の領域については自学自習が必要である。だから能動性と正しい方法が必要不可欠である。
コミュニケーション以前の話~自分の拠り所~
就労移行支援事業所を利用する障害当事者はほぼ全員コミュニケーション力不足を自覚している。その自覚のとおり、就労定着のためにはコミュニケーション力が必要不可欠。コミュニケーションの目的は人間関係を円滑にすること。人間関係を円滑にできないなら、職場でも同僚や上司と健全な関係を作ることができず、仕事も当然できない。一般就労では成果は必要不可欠。成果がだせないなら一般就労は不可能である。
しかしコミュニケーション力の不足の原因を正しく理解できていない障害当事者も大半なのではないだろうか?実は健全なコミュニケーションを図るためには「自分自身の拠り所」が必要不可欠である。自分自身の拠り所とは自分のすべてを理解し、受け入れてもらえる場所なり存在が自分自身の中に存在するということである。そういったものが自分の中に存在していないと、瞬く間に人間は不安定になる。拠り所を求めて誰かに依存しようとして異常行動に出たり、それを無理に抑制して、情緒不安定になったりする。これではコミュニケーションどころの話ではないことは自明である。自分自身に拠り所がない状態だと、感情と言動を分けて考えるセルフ・コントロールも全くできないといえる。

でも自分自身の拠り所がなにかというのは誰かが教えることができるものではない。自分自身の拠り所は他ならぬ自分自身にしか見いだせない。自分自身の拠り所を見出す難しさはここにある。そして何より、一般就労できない人の大半はこれができていない。
正しいコミュニケーション
就労移行支援事業所に通う障害当事者がコミュニケーションの重要性と自信のコミュニケーション力不足は自覚しているが、「コミュニケーション」というものを誤解していたり、理解が曖昧な障害当事者の人がとても多い。コミュニケーションを一言で言えば、「相互の妥協」といっても過言ではない。コミュニケーションにおいて、妥協ばかりしたり、妥協ばかりさせているようではそれは双方向的でないという意味においてコミュニケーションではなく、単なる支配関係でしかない。だからコミュニケーションには相互の妥協が必要不可欠である。
コミュニケーションの技術はとてもシンプル。守るべきは以下の2つ
- 聴く技術:相手の話を評価をせずに聴く。
- 伝える技術:自分を主語にして、自分の気持ちを伝える。
少なくとも上記を守ってコミュニケーションをする限り、相手を不愉快にさせたり、自分が不愉快になったりすることは原理的に起きない。
現実のコミュニケーション~妥協のススメ~
しかし現実のコミュニケーションにおいては相手を不愉快にさせたり、自分が不愉快になったりといったことが必ずといっていいほど起こる。理由はいうまでもなく、コミュニケーションの技術にそったやり取りをしていないからである。しかし実際のコミュニケーションにおいてはそういったことは当たり前のように起きる。特にコミュニケーションで問題を起こすような対応は
相手の話を遮って、あたかも自分の主張を客観的事実のように言って一切譲らない。(ジャッジメント)
ジャッジメントしてくる相手は、妥協を拒否している点においてコミュニケーションを取る意思が相手にはない、ということである。もちろんコミュニケーションを取る側がジャッジメントしているのであれば、コミュニケーションを取る側にコミュニケーションの意思がないということになる。こういう場合どうすればいいか?考え方としては「妥協した者勝ち」ということである。
もちろん妥協というのはある意味で自分の考え方・感情・決断が否定されるわけだから不愉快ではある。しかし相手の主張の背景にあるものを想定する努力は必要である。そして妥協する人が相手の主張を納得することが必要である。自分を否定され、相手のために一手間かけるという点を見ると、一見妥協した側が2重損であり、負けのように見えるが実際は違う。妥協するということは相手に対していろいろ考えを巡らせなければならない。そのプロセスは論理的思考力の強化につながる。その結果として多くの知見を手に入れることができる。論理的思考力と知見は生きていく強力な武器になる。信用やお金につなげることもできる。自分自身を磨くためにも妥協はできるならしたほうがいい。
社会技能は現場で磨け
上記のコミュニケーションができてきたら、次に意識することが社会技能である。これは多くの就労移行支援事業所でもプログラムとして織り込まれており、実践されている。では社会技能とは何だろうか?社会技能といってもいろいろあるが、もっとも基本的なことは「礼儀」「マナー」である。相手との距離感を考える。目上の人には敬語を使う。立ち振舞や所作、身だしなみに気をつけるといったことである。これは実際に社会にでて実践で鍛えるのが一番の早道ではないだろうか?そして社会技能は社会的立場が高いほど重要になってくる。社会的地位がほしいのなら、社会技能は徹底して鍛えたほうがいい。
数理論理力(論理的思考力)
次に業務能力について考える。業務能力の基礎基本となるのが論理的思考力。論理的思考力の基本的な理論は数理論理学にある。数理論理においてはまず「主張」と「命題」の区別をすることから始める。「~は…である」というのが主張だが、その中でも客観的に真偽が判定できるものを特に「命題」と呼ぶ。世の中ではいろいろな主張がありますが、それが「命題」なのかどうかを判別できるところから論理的思考力の基本は始まる。
数理論理の基本~論理演算~
命題については3つの演算が定義される。
- ①論理積:~かつ…(両立)
- ②論理和:~または…(少なくとも片方、あるいは両方が成り立つ)
- ③否定:~ではない
以下の内容を真理値表を用いて書くと以下の通り。

条件命題と背理法
命題(真偽が客観的に判定できる主張)の中でも比較的よく現れるのが条件付き命題である。条件付き命題の形式は「~ならば…である」となっている。これを数理論理学の記号で書けば以下のようになる。

これは以下のようにも書ける。

上記の式において、pを仮定、qを結論と呼び、またpを十分条件、qを必要条件と呼ぶ。そして、必ず十分条件のほうが必要条件より条件が厳しいという性質を持っている。また、条件付き命題は前述の論理演算の式で書き換えることができる。

上記の式だけでは難しいと思いますので、真理値表を書いてみよう。
| p | q | pならばq |
| 偽 | 偽 | 真 |
| 偽 | 真 | 真 |
| 真 | 偽 | 偽 |
| 真 | 真 | 真 |
制約の厳しい十分条件が成り立って、制約のゆるい必要条件が成り立たない場合偽と主張している。具体的に言えば、応用ができて基礎ができないということはありえないという主張でもある。上記真理値表より、条件付き命題は以下のような書き方もできる。

ちなみに上記論理で命題の正当性を示すことを背理法と呼ぶ。背理法とはあえて間違った論理展開をし、それで問題が起きることによって、あえて間違った選択は間違いであり、そうでない選択が正しいことを示す。図で書くと以下のようになる。

背理法という論法は人になにかを伝えるときにとても有効である。仮にそれが間違った選択であっても、あえて間違わせて、それによって不整合が起きるということを体験してもらううことで、正しい方法や考え方を体験として理解してもらえる可能性が高い。
述語論理~「すべての」「少なくとも一つ以上」~
世の中には自己主張が強い人がいて、「私の言うことはすべてにおいて正しい」なんてよく言うことがある。こういう場合、自己主張している人の主張の主客を判断する必要がある。こういう主張の欺瞞を見抜くのが「すべての」と「少なくとも一つ以上」という論理。正式な用語で「述語論理」と呼ぶ。

特に「すべての」については細心の注意が必要である。「すべての」と言った以上、いかなる例外もなく「すべて」成り立たねばならない。一切の例外も許されない。論理式の構造を見れば自明である。そういった意味では「すべての」という主張を安易にすべきではない。
構造理解力~具体化と抽象化~
まず定義から入る。抽象化とは複数のものから共通する性質を抽出すること。具体化とはある特定の性質を例示すること。実際にやってみましょう。

上記の図形で共通する性質は何だろうか?答えは「閉じた曲線」ということ。これが抽象化。具体化は「閉じた曲線である」を具体的に例示すること。では以下の図形は「閉じた曲線」だろうか?

上記は閉じた曲線ではない。閉じてはいますが曲線ではないからだ。曲線ではない理由は尖っている部分が一つ以上存在するためである。とりあえず尖っている部分が一つでも存在するならそれは曲線とは呼ばないと考えていただきたい。ただし曲線とはなにかを厳密に言うと数学の話になるため割愛する。
構造理解力~モデル化~
モデル化とは具体的な目的が与えられていて、それを図示すること。モデル化のいい例が地図である。

地図は、位置を知ることが目的である。その目的を果たすために、写真では事細かく色なり形状なりがあるが、それらを全部カットして、位置さえわかればいいレベルまで簡略化する。これがモデル化である。
表現力
伝える内容は同じでも言葉の選び方を変えると伝わり方も変わる。タメ口で言う場合と敬語でいう場合では伝わり方が変わるのは自明である。タメ口で伝えれば親しさなどを伝えられるが、どこか気楽でいい加減な感じがするものである。敬語で伝えれば礼儀正しさや相手への敬意が伝えられるが、気軽というわけではない。表現力を鍛えるよいツールが本である。読書をすることで、語彙を自分の中に仕入れて、実際に使っていくとTPOに合わせた表現が可能になる。

